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BL、生活、その他いろいろ

「業務上過失ポルノ」が面白かった話

長与エリ子「業務上過失ポルノ」というBL漫画を読みました。これが、BL漫画としてだけでなく、LGBTQ+漫画としてもかなり面白かったので、感想を記しておきたいと思います。
この時点でおっ気になるな?と思った方はレビュー読むよりネタバレなしで本編読んだほうが絶対に面白いので是非先に読んでください!!

以下ネタバレあり!



まず、主人公となるのは吉井亮太、ポジションはボトム(受け)で、週間アスクの編集部社員。対してトップ(攻め)になるのは土倉紀代尭(はぐらきよたか)、週間アスクの社員で吉井の上司です。基本この二人のセックスがメインになって話は進んでいきます。
この作品は、シチュエーションがすごく盛り沢山で、オフィスえっちから学生コスプレえっち、セクシーランジェリーえっちなど、それぞれとてもえろ度が高く、そういう面でもかなり満足度の高いBLなのですが、話はそれだけでは終わらないのです……樫木陽子という女性の存在と、土倉の過去がこの作品をさらに興味深くしていきます。

この陽子さんという人は、土倉の元妻なのですが、「恋愛感情が分からない・人に対して性的な欲求を持たない・でもセックスはできる」という人です。

えっ、書いてあるわけじゃないけど、「アロマンティックアセクシャル」じゃん!!!!とびっくりしました。こんなに明確にアロマ・アセクであることを明言しているキャラクターが出てくる漫画って珍しくないですか?
対して土倉は、「恋愛対象が男だけど『普通の男』を装っている」人で、カモフラージュのために陽子さんと結婚したいと提案します。そこから二人の結婚生活は始まるのですが、しばらくして陽子さんは「子供がほしい」と言って離婚を切り出します。
それに対して土倉は「裏切られた」「俺をおいて自分だけ『普通の人』になるのか」と感じる……という展開になっていくのですが。

つらくないか!?!?土倉、かわいそうに!!!
ずっと男が好きであることを親にも言えず世間からも隠そうとしてきて、ようやく安心できる場所・自分と似ていると感じる人を見つけたのに、相手はあっさりと自分との関係を終わらせて「普通の人」と同じようなことをしたいと言い出すんです。相手と続けていくために病院で異性愛者として扱われながら検査を受けまでしたけどやっぱりだめだなんて、つらすぎる。

でも、だからといって陽子さんが悪いというふうには思えないし、アロマンティックアセクシャルだから子供もいらないはずじゃんとも思えないし(歳を経て子供を持ちたいと思うようになる気持ちはわたしも分かるので)、陽子さんは陽子さんの人生を歩む上で離婚したかったんだろうな、と思っていました。
時系列ではその騒動があったあとに土倉と吉井は関係を持つようになるので、結果としては土倉も自分が幸せになるための道を歩んでいくことになって、結果オーライなんですが。

ここでこちらの記事をご覧ください。
e-nagayo.fanbox.cc

「業務上過失ポルノ」の作者、長与エリ子さんのFANBOXで一般公開されている記事です。
ここに、「結びつきたい欲」という言葉が出てきます。他人と深く結びつきたい欲求のことをそう仰っているのですが、その言葉に、わたしはすごくスッキリしたというか、納得したというか、共感しました。子供を持ちたいというのも、「母子関係」という「結びつき」が得たかったと思ったんじゃないかと思って描いた、というところにも深く納得。

今、世間では恋愛と結びつきたい欲ってごっちゃにされてて、結びつきたい欲があるなら恋愛をして性行為もできるはずだと思われているけど、本当は全くの別物だと思います。ただ単に人と深い結びつきを持ちたいという気持ちも、それはそれとして一つあるんじゃないか。それを実現するために、恋愛無しで結婚したり、子供を産んだりしたいという気持ちがあってもいいんじゃないか。
土倉は陽子さんのことを「普通の人」になってしまったと思ったけど、陽子さんは多分「結びつきたい欲」があるだけの人というところは変わらなくて、どちらかというと恋愛と性欲と「結びつきたい欲」が一緒になっているという点では土倉の方が「普通の人」なのかもって思いました。(あくまでかっこつきの「普通の人」であって、長与さんも仰ってる通り二人ともどこにでもいる普通の人だと思います。)


さて、土倉と陽子さんのことはこんな感じなのですが、他にも、吉井が家族にゲイであることをオープンにしていて受け入れてもらっている描写や、今まで男を好きになったことで不当な扱いをされてこなかったと描かれているところも好きなポイントでした。
一度作品を読み終えて、陽子さんのことや土倉の過去について知った上でもう一度最初から読むと、最初は特に気にもならなかった、吉井に対する土倉の態度や細かい行動が伏線になっていて、土倉〜〜〜〜!色々あったんだね〜〜〜〜!となります。そこもまた楽しみの一つだと思います。
あとは吉井が喋りは標準語なのに内心は関西弁(奈良出身)なのも萌えポイントです。

とにかく面白いです。買って損はないどころかお得すぎます。読んでください。そして本編読了後に読む長与さんの記事は染みます。この文章をここまで読んだ人はそこそこネタバレを食らってしまっているけれども、それでもまだまだ新しい気持ちで読めるところがたくさんあるので、是非「業務上過失ポルノ」を読んでください!!そういう話でした!!