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BL、生活、その他いろいろ

髪の毛をばっさり切ったら27年間手に入らなかったものが手に入って大泣きした話

昔書いた記事でも言ってたような気がするが、わたしは隣に住む父方の祖母にあまり褒められたことがない。
というかむしろ、悪口を言われる方が多かったと思う。


近所に、Aさんというおばあさんが住んでいるのだが、そこのお孫さんがわたしと同い年の女の子だったので、小学校に上がる前までくらいはその子とよく一緒に過ごしていた。この子のことはAちゃんと呼ぶことにする。

かなり多くの時間をその子と過ごしたが、わたしはその子のことは大嫌いだった。何故なら、わたしはいつもその子と比べられ、貶されるからである。

小学生になるまでの、Aちゃんと顔を会わせていた時期も、AちゃんやAさんの前で、「うちの孫はAちゃんと違って愛想もなくてかわいくない」などと言われていたが、違う小学校に通うようになり、わたしとAちゃんが会わなくなってからも、Aさんが祖母に、「うちの子は二重跳びができるようになった」と言えば、祖母はわたしに向かって「Aちゃんは二重跳びができるようになったのにお前はできない。やっぱりAちゃんはすごい」と言うし、はたまたAさんが「Aちゃんはもてる」と言えば、祖母はわたしに「やっぱり女は愛嬌だ、Aちゃんにはそれがあるけどお前にはない。かわいくない」と言う。

まあね、実際AちゃんがAさんや祖母の言うとおりの「できる子」なら、わたしだってよーし頑張って追い付くぞ!とか思うけど、Aさん、超嘘つきなんですよね。すぐバレるような嘘も、人を傷つける嘘も、平気で言うババアだったのだ。Aちゃん、ほんとは別にかわいくないしもててないし二重跳びも出来ない。
かわいいかわいくないの判断は人それぞれなので置いておくとして、「二重跳びができる」に関しては完全にうそだし、なんならわたしの方が縄跳び得意だった。二重跳びどころかつばめ返しとかも出来た。そのことをアピールするために、祖母が庭に水を撒きにいく時間帯を狙ってこれ見よがしに二重跳びをしてみたこともあるが、「砂利が飛んで家の壁や車に傷がつくから庭で縄跳びするのはやめろ」と言われて終わった。

そんなかんじで、中学生くらいまでいろんな分野で「わたしも頑張ってますよ!いい孫ですよ!」アピールをしてみたりしていたのだが、どれだけやっても「Aちゃん」という「模範生」を越えることが出来なかった。何故か知らないのだが、祖母はAさんのことがめちゃくちゃ好きで、Aさんの言うことは全て鵜呑みにしているくらいだった。さらに、祖母は一回思い込むとそれが祖母の中での「絶対的事実」になるので、Aさんがどう考えても嘘だろうというような「Aちゃんアゲ話」をし、祖母がそれを信じてしまえば、いくらわたしが目の前で二重跳びをしようが学校でのいい成績や何かの賞をとったことを報告しようが、わたしは祖母の中ではAちゃんに劣るかわいくない存在だった。

ところが高校にあがると、進学した学校の偏差値においてわたしがAちゃんよりはるかに勝ることになった。また、20歳になったころ、わたしは痩せ、色んなかわいい服を着るようになった。

それを見て、Aさんは、「しおりちゃんは賢いね」とか「しゅっとした美人さんになったね」とか言ってくるようになったので(まあ明らかに本心ではないだろうなというかんじであったが)、祖母はAさんの意見には全て同意するんだから、「Aさんが褒めるわたし」のことを褒めてくれるのでは!?と期待したのだが、特にコメントはなかった。

わたしが、大学にあがるまでおしゃれに対して消極的だった、その根底には、Aちゃんと比べられて「かわいくない」と言われていたことがあった。そんな長年のコンプレックスをどうにかこうにか乗り越えて、身につけたワンピース。塗った赤リップ。
しかしそれらも、祖母から見れば気にくわなかったようで、「そんな格好をしているから男の人がムラムラとしてしまい痴漢をしてしまうんだ。そんな格好の女が悪い」とか言ってくるので、なんかも~~~~祖母にはもう一生褒められないわ!分かった分かった!!ハ~~~~~~!!!!ってかんじだったんですけど。


先週髪の毛を切った。
27年間生きてきたなかで、わたしは大半の時間をロングヘアで過ごしてきた。髪質とかの関係でロングの方が扱いやすかったとか、セーラームーンに憧れてたとか、まあ理由は様々だけど、肩より短くしたことはほぼなかったくらい、長い髪の毛と付き合ってきた。
でも最近、髪質が改善されたり、ロングの手入れが重荷になってきたりして、ここらでショートにしたほうがいいな、と思うようになったから、ばっさり切った。30~40センチくらい?もう襟足とかほぼないみたいな、ショートのなかでもかなりのショートに。

で、みんな驚くだろうな~ショートにするって家族にも言わずに美容院行ったし、ほんとにこんなに短くするの初めてだからな~びっくりさせてやろうヒヒヒ、くらいの気持ちで帰宅して、祖母と同居している叔母と母と弟をびっくりさせた、その次の日。

祖母にも見せてやろ~びっくりするだろうな~と思って、回覧板まわしついでに顔見せに行ったら、一言目が「かわいいね」だった。


「かわいい」って、物心ついてから祖母に一回も言われたことのない褒め言葉だった。ちなみに、物心ついてから一番言われてきた悪口は「かわいくない」である。

そんな訳なので、なんか5回くらいかわいいって言われて褒められたことに逆にこっちがびっくりして、しどろもどろになりながら家に帰り、えっ?初「かわいい」をそんな気軽に連発する?ってかんじで、えっ?のままその日は過ごして、次の日も昨日のあれはなんだった???という気持ちで、数日混乱しながら過ごし、そんで昨日。

祖母の家を覗きに行ったら、また髪の毛について褒められた。「かわいい、かわいい」と。そしたら叔母もやってきて、祖母がずーっと「ショートかわいかった」って言ってたんだよ、と教えてくれた。



この衝撃伝わりますか?
わたしにとってはすごい衝撃というか、なんていうか、幼い頃求めていた言葉、なにやっても褒められなかったのに、髪の毛切った、それだけのことでこんなに簡単に得られてしまいましたけど???27年間の努力、劣等感、諦め、忍耐は一体???

「かわいい」、その一言が欲しかった頃。
「かわいくない」の一言がもたらす無気力感。

大袈裟と言われるかもしれないけど、あの時、あの瞬間、「うちの孫もかわいい」と言ってくれていたら、人生変わってたよ、ほんと。

ほんとに変わってたと思う。
それくらいわたしにとって大きなことだったのに、カット&トリートメント6,500円で軽々ともらえちゃったよ、「かわいい」を。


褒められて嬉しくないことはないけど、褒められたらありがとうって言うけど、「かわいい」と祖母に言われる度に、幼かった頃の、昇華しきれずに抱え込んでたコンプレックスまみれのわたしが、今のわたしを妬んでくる。今のわたしは、幼い頃にこの「かわいい」が6,500円で手に入るものだと知っててくれたら、今こんな状態じゃなかったろうにな、と幼い頃のわたしを叱り飛ばしたくなる。



髪を切って数日。幼い自分と今の自分の喧嘩と、混乱がある程度おさまって、残ったのは虚無感と、今さら叶うはずのない期待や希望の残骸で、気付いたら大泣きしてた。


滑稽な話である。
泣きながら、泣いてるわたしも滑稽だなと思ったけど、涙は止まらなくて、27歳の「初めて」って結構きついなとおもいながら、まあ切った髪も戻らないし、ていうか自分でもショートの自分気に入ってるから切ったこと自体に後悔はないけど、なんというか、ままならねえな世の中は、みたいな感じで今日もショートヘアで生きていく。しかない。